コロナ禍で帯状疱疹の発症が増加傾向、予防のためにはワクチン接種、発症後には早期の痛み治療が重要に

帯状疱疹を発症する人が、年々増加傾向にあるという。帯状疱疹とは、小さいときにかかった水疱瘡(みずぼうそう)のウイルスが、免疫の低下などにより再活性化して、皮膚に水疱を作る病気。ピリピリとする痛みなどをともなうが、問題は水疱が治った後に、神経に障害が残って、帯状疱疹後神経痛(PHN)という慢性痛(神経障害性疼痛)に移行する可能性もある。そうなると、「焼け火箸(ひばし)を突っ込まれた」ともいわれるような激痛が続くことになる。そこで今回、痛み治療の専門医である大阪なんばクリニックの森本昌宏院長(痛み治療センター長)に、帯状疱疹の予防方法や治療のポイントについて聞いた。

大阪なんばクリニックの森本昌宏院長

「新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)によって帯状疱疹になる人が増えている。ワクチンができているので、ぜひ接種して予防してほしい。帯状疱疹の本体は神経の病気。皮膚だけの病気と思わないで、もし、帯状に広がる水疱が出たら、1日も早くペインクリニックを受診して、慢性痛への移行を防ぐ必要がある」と森本院長は指摘する。

帯状疱疹は、中高年になるにつれて発症が増えることで知られ、高齢社会を迎えて、年々、増加しているのが現状だという。「新型コロナによって、50歳以上の患者では帯状疱疹の発症が15%増えたと報告されている。またワクチン(ファイザー製)の副反応として、帯状疱疹が発症するリスクが1.43倍上昇するとのイスラエルからのデータもある」と森本院長。「帯状疱疹は、末梢神経の中継地点的な神経節という所に潜んでいた水疱瘡ウイルスが、ある日突然に暴れ出し、さまざまな問題を起こす病気。長年潜んでいたウイルスが、何かのきっかけで、再度、神経節から末梢神経、皮膚のほうへとはい出して、水ぶくれを作る。それのみならず、ウイルスは神経自体に悪さをするというか、障害を与える。水ぶくれは1つの兆候ではあるが、病気の本体ではない。帯状疱疹の病気の本体は、末梢神経であるといっても良いと思う。障害を受けた神経が、その後、慢性的な痛み、つまりPHNを作ってしまう」と、帯状疱疹とはどのような病気なのかを解説してくれた。

帯状疱疹の症状例

「帯状疱疹にかかった人が、PHNに移行する確率は年齢とともに高くなる。50歳代では50%ぐらい。60歳代では60%ぐらい。70歳代を超えるともっと上がる。帯状疱疹では、早い時期に痛みのある神経付近に局所麻酔薬を注射して痛みを抑える『神経ブロック』を行わないと、PHNに移行しやすくなる。移行してしまうと、全く治らない状況に陥りかねない」と、高齢になるほどPHNになるリスクが高まるという。「わたしたちのペインクリニックでは『帯状疱疹のブツブツが治ってから1年以上たっているのに、まだ痛みが続いている』として受診する患者が後を絶たない。このPHNで長年治療に通っている人も多く、一番長い人に至っては30年の付き合いになる。とにかく、帯状疱疹は“先手必勝”で、早急に治療をする必要がある。ペインクリニックでの治療は皮膚科での治療とは違うものになる」と、PHNへの移行防止には早急な治療が必要なのだと強調した。

「帯状疱疹の好発部位は2ヵ所あって、1つは三叉神経の第1枝。耳のところから3つに分かれて顔面に伸びている三叉神経の枝の一番上。目の上やおでこになる。もう1ヵ所が乳首の周囲。脇の下から乳首の周囲と考えてよい。肋骨の下を走る肋間神経に沿って出ることになる。帯状疱疹と呼ばれているように、ブツブツは帯状に体を半周する」と、帯状疱疹の好発部位について説明。「帯状疱疹では、当初は痛みが先行する。皮膚を見ても赤くも何ともなっていない。ブツブツは痛みに遅れて出てくる。一番多いのが2~3日後。遅い人でも1週間ぐらい後には出てくる。だから『なんでこんなに痛いのか』と鎮痛用の湿布をしてしまう人がいる。その後、湿布を剥がしてみると、ブツブツができているのに気づいて、『湿布にかぶれた』と思ってしまう。そうして帯状疱疹の治療開始が遅れてしまうことも多いと思われる」と、帯状疱疹は早期発見が難しい病気でもあるという。

「PHNへの移行は、大体、1ヵ月後になる。3ヵ月後というケースもあるとされる。臨床では、患者が『痛みの種類が変わってきた』という表現をする。その1ヵ月後というのは、皮膚にブツブツができてから、水泡がかさぶたになって、それが脱落していく時期に一致する。線を引いて、どこまでが帯状疱疹、どこ以降はPHNと分けることはできない。当初から神経の変性は始まっているわけで、それが非常に強くなってくると、痛みの性質が変わるのだと考えている」とのこと。「帯状疱疹の痛みは当初は『ピリピリ』、そのうちに神経痛の様相を呈した痛みに変わってくる。『走るような』とか『電撃痛』というような表現だが、『焼け火箸を突っ込まれたよう』ともいわれる。つまり『ピリピリ』とした痛みに電撃痛が加わってくる。最初は間欠的に起こる」と、痛みの変化についても言及してくれた。

「帯状疱疹治療の一番大事なことは、PHNへの移行を予防すること。一般的には、治療にまず抗ウイルス薬を使うが、それで移行を防げるかどうかに関しては、実はデータがない。帯状疱疹の痛みは最初はピリピリ、やけどのような痛みとされる。こういうときは通常の痛み止めでも良いのだが、当院では神経痛によく効く薬を早い時期から使っている。使用するのは『ガバペンチノイド』(製品名はリリカ、タリージェ)という薬。神経ブロックも早い時期から行う」と、帯状疱疹治療のポイントについて説明。「胸の上のほうと三叉神経の場合には、首の6番目の骨の根元にある交感神経の集まりに麻酔薬を入れて痛みを止める『星状神経ブロック』を行ったり、脊髄を包んでいる硬膜の外側へ局所麻酔薬を注入する『硬膜外ブロック』(首から下の痛みをブロック)などを使う」と、神経ブロックの具体的な治療法を紹介した。

大阪なんばクリニックの院内

「乳首の周りの場合は、肋間神経ブロックを行うのが一般的だと思う。当院では、それよりも一歩踏み込んだ治療を早い時期から行っている。神経根ブロック(高周波熱凝固法)というもので、脊髄から末梢神経が出てくる所に局所麻酔薬を注入した後に熱で凝固する。それを行うと、データとしてはまだ示せないが、PHNへの移行が確実に下がると考えている」と、PHN予防のために神経根ブロックを積極的に行っていると話す。「これらは通常、神経痛に対して行う治療であり、まだ帯状疱疹の段階でそんなことしていいのかという人もいるかもしれないが、副作用は特にないので、私は早くに行うべきだと思っている。PHNになって、1年を超える痛みを訴えるような人ではこれらの神経ブロックに加えて、硬膜の外側に電極を挿入して通電する脊髄刺激療法というものを行うこともある」と、神経痛を早期にブロックすることの重要性を訴えた。

ワクチンイメージ

森本院長は、「とにかく、まず帯状疱疹ワクチンを打って予防することが大切だ。現在、2つのワクチンがある。1つは大阪大が開発し、2016年に出た生ワクチンで、51%の有効率とされている。もう1つは2020年発売のグラクソ・スミスクライン社の不活化ワクチン。こちらは50歳以上の人での大規模試験で、帯状疱疹の発症を97.2%抑えることができたとするデータも出ている。接種はいずれも自費になる。生ワクチンは約7000円。不活化ワクチンは2回の接種で、1回約2万円、2回で計4万円になる。確かに高価だが、帯状疱疹になって、PHNに移行して後々まで痛い思いをすることを考えるとぜひ受けるべき。帯状疱疹は、まず予防が大事。水疱が出たら、ペインクリニックでの神経ブロック治療を考えてほしい」と、まずはワクチンで帯状疱疹を予防し、発症した場合には早めに痛みの治療をしてほしいと話していた。

大阪なんばクリニック=https://osakanamba-cl.com/


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