中谷財団、「第5回長期大型研究助成」として順天堂大学を採択、「中谷生体空間オミクス医療解析拠点」を設立へ

左から:中谷医工計測技術振興財団 事務局長の松森信宏氏、同 代表理事の家次恒氏、順天堂大学 学長の新井一氏、順天堂大学大学院医学研究科生化学・生体システム医科学 主任教授の洲崎悦生氏

BME(Bio Medical Engineering~生命科学と理工学の融合境界領域~)分野における技術開発や技術交流等の促進と人材の育成を目的に幅広い助成事業を展開している公益財団法人中谷医工計測技振興財団(以下、中谷財団)は、その事業の一つとして、新たな技術・学術、応用分野を開くための基盤を生み出すと共に、グローバルに活躍する若手研究者の育成を目的とした「長期大型研究助成(5年間で最大3億円)」を実施している。この第5回目として、国内における最高水準の医学・医療を提供する学校法人順天堂 順天堂大学(以下、順天堂大学)を採択し、生体システムの全細胞解析技術と医学・医療への応用を目指すイノベーションの拠点となる「中谷生体空間オミクス医療解析拠点(Nakatani Biomedical Spatialomics Hub)」を設立することとなった。2月13日には、「第5回長期大型研究助成」の贈呈式が行われた他、助成者である順天堂大学大学院医学研究科生化学・生体システム医科学 主任教授の洲崎悦生氏が今回の研究内容について紹介した。

中谷医工計測技振興財団 代表理事の家次恒氏

「中谷財団は、神戸の臨床検査機器・試薬メーカーであるシスメックスの創業者・中谷太郎氏によって1984年に設立された。2012年に公益財団法人へと移行した後は、規模を急速に拡大し、医工計測技術分野における先導的技術開発の助成や、技術開発に顕著な業績をあげた研究者の顕彰に加え、若手の人材育成にも注力している。今年4月に設立40周年を迎えるに当たり、日本から世界をリードしていくべく、事業領域をBME分野に拡大すると共に、新たな学術賞として『神戸賞』を創設した」と、中谷財団 代表理事の家次恒氏が挨拶。「長期大型研究助成は、当財団が研究助成の最上位に位置付けているものであり、5年間で最大3億円を助成する。その第5回として、順天堂大学大学院の洲崎氏を研究責任者に採択し、新たなイノベーション拠点を設置することとなった。洲崎氏は、長期大型研究助成に次ぐ規模となる2年間の特別研究助成を3月まで受けている。その成果を踏まえたうえで、今回の長期大型研究助成によって研究をさらに加速させ、日本国内にとどまらず世界のBME分野をけん引する拠点を目指してほしい。そして、将来的には神戸賞を受賞するような優れた成果をあげてほしい」と、洲崎氏の研究に期待を寄せていた。

順天堂大学 学長の新井一氏

続いて、順天堂大学 学長の新井一氏が挨拶。「中谷財団の第5回長期大型研究助成に、当大学の洲崎氏による研究が採択されたことを光栄に思っている。この半世紀、様々な微小な物質を測る、また微細な構造を見る技術は格段に進歩し、これによって医療分野にも大きな変革がもたらされてきた。微小な物を測る・見ることを突き詰めていくと、最終的には生体の機能にまで行きつくと感じている。今回の長期大型研究助成を受けたことを機に、大学としてもBME分野の研究を全面的にバックアップし、推し進めていきたい」との考えを述べた。

左から:中谷医工計測技振興財団 代表理事の家次恒氏、順天堂大学 学長の新井一氏

ここで、第5回長期大型研究助成の贈呈式が行われ、中谷財団 代表理事の家次氏から、順天堂大学 学長の新井氏に、長期大型研究助成の目録と記念プレートが贈られた。贈呈式の後には、助成者である順天堂大学大学院医学研究科生化学・生体システム医科学 主任教授の洲崎悦生氏が、新設する「中谷生体空間オミクス医療解析拠点」の概要および研究内容について紹介した。

順天堂大学大学院医学研究科生化学・生体システム医科学 主任教授の洲崎悦生氏

「『中谷生体空間オミクス医療解析拠点』は、私が中心となり、AI創薬・データサイエンスを専門とする東京医科歯科大学 教授の清水秀幸氏、デジタル病理学・AI病理学を専門とする長崎大学 教授の福岡順也氏の3名によって構成される。現在、生命科学においては、『オミクス技術』(生体情報の網羅的解析技術)が非常に重要な技術の1つとなっているが、3次元空間情報に細胞の分子情報を集めるアプローチは研究が進んでいない。そこで今回の研究拠点では、全細胞が作る空間情報のオーム(網羅的な生体情報)を解析するセルオミクス技術を開発し、医学医療のアンメットニーズへの応用を目指していく」と、新拠点の設立背景や研究目的を説明した。「この拠点のベースとなる技術の一つが、我々が開発した世界最高性能の組織透明化技術『CUBIC』である。同技術では、化学的処理によって、固定した生体組織を完全に透明にすることができる。また、透明化組織用3D顕微鏡(ライトシート顕微鏡)を用いることで、CTのように連続断層像を撮影し、臓器の中のすべての細胞を丸ごと観察することが可能になる」と、実際にマウス全脳の3次元データモデルを示しながらセルオミクスを実現する技術について解説してくれた。

「今後、『中谷生体空間オミクス医療解析拠点』では、生体組織を全細胞解像度で解析する独創的な医工計測技術『Spatialomics』の確立を目指すと共に、難治がんの創薬や3次元病理学といった、医学・医療のアンメットニーズを解決する革新的な研究を5年間で推進していく。また、拠点を構成する3名は、全員が医師免許を持つ医学研究者であり、萌芽的かつ世界をリードする新規技術で、基礎研究から臨床橋渡し研究までを一気通貫につなぐ独創的な医学・工学・情報科学の融合境界領域研究を進めていく」と、新拠点で取り組む研究内容についても言及。「研究目標としては、『セルオミクス+AIによる難治がん(脳腫瘍)創薬』と『セルオミクス+AIによる3次元病理学』の2つを掲げている。難治がん創薬では、セルオミクス解析とAI創薬によって、高感度かつ大規模や薬効スクリーニング系をデザインし、未だ有効な薬物ターゲットが見いだせていない脳腫瘍の治療ターゲットや薬物開発を目指す。また、3次元病理学では、病理検査を3D化することで組織構造の『真の姿』を観察し、感度・客観性の向上を図ると共に、病理医とAI双方に最適化した情報モダリティを提供していく」と、セルオミクス技術を拡張し医学分野のアンメットニーズへの橋渡し役を担っていくのだと訴えた。

中谷医工計測技振興財団=https://www.nakatani-foundation.jp/
順天堂大学=https://www.juntendo.ac.jp/


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