- 健康管理!教えて!!2025/03/10 20:05
体内の防御システム「免疫」はどのようにして発見された? 免疫研究の歴史を辿る

細菌やウイルスなどの病原体がもたらす多くの感染症は、かつて神の罰や悪霊の仕業とみなされ、人々は恐怖と無力感の中、祈りや儀式に頼るしかありませんでした。しかし、人類は長い歴史の中で感染症に立ち向かい、克服する道を切り開いてきました。その鍵となったのが「免疫」という体内の防御システムです。免疫とは、「疫(病気)から免(免れる)」という意味で、ウイルスや細菌などの異物から体を守る仕組みのことをいいます。では、どのようにして免疫は発見され、研究が進められてきたのでしょうか。
14世紀、ヨーロッパでペストが大流行し、多くの人の命を奪いました。しかし、その中で奇跡的に助かった一部の人は、その後何度ペスト患者と接触しても二度とペストに罹患することはありませんでした。当時は、この奇跡が神の力によるものだと考えられたことから、ラテン語のim-munitas(免除)、つまり「法王の課税(munitas)を免れる(im-)」という意味の単語が用いられ、今日の「immunity(免疫)」の語源になったといわれています。
長い年月を経てこの奇跡が免疫によるものであると証明されるのに大きな成果を上げたのが、免疫の父と呼ばれるイギリスのエドワード・ジェンナーです。彼は、乳搾りをする牛と接して牛痘に罹患した人は天然痘に罹患しないという農民間の言い伝えを元に、牛痘の一部を人に移植し天然痘予防に貢献しました。この予防法によって深刻な被害のあったヨーロッパ諸国は救われ、人類の危機回避に大きく貢献しました。
ジェンナーの考えた種痘法(天然痘を予防する方法)の効果はわかっていたものの、なぜ罹患しないのかという仕組みまでは明らかになっていませんでした。しかし、年月を経てフランスのルイ・パスツールは、ニワトリコレラの実験によってその仕組みを証明しました。ニワトリコレラ菌を接種したニワトリと接種していない2種類のニワトリを用意し、新たに培養した菌を接種させたところ、先に菌を接種していたニワトリは元気で、未接種のニワトリは感染により死んでしまいました。この実験によって、毒性の弱まった菌をあらかじめ接種することで感染症が予防できることを証明し、のちのワクチンの開発につながったのです。
日本人で免疫学に名を残しているのが新紙幣の肖像画にもなった北里柴三郎です。彼はドイツの学者エミール・フォン・ベーリングと共に破傷風菌を発見し、難しいとされた破傷風菌の純粋培養を独自の装置で成功させました。その後両博士は、血中で作られる抗体を発見し、動物の血清中に含まれる抗体を利用して人間の感染症を予防する血清療法を開発しました。血清療法は、その後の破傷風、ジフテリアのワクチン開発につながり、現在では世界中で医療に役立てられています。(監修:健康管理士一般指導員)