長崎大学とキリン、新型コロナに対する「プラズマ乳酸菌」を用いた特定臨床研究成果を発表、免疫細胞pDCが維持されることなど確認

左から:長崎大学副学長(新型コロナウイルス感染症対策担当)・長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授・長崎大学病院感染制御教育センター センター長の泉川公一先生、長崎大学 客員教授の山本和子先生、長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 呼吸器内科学分野(第二内科)教授の迎寛先生

長崎大学は、キリンホールディングス(以下、キリン)が研究開発を行っている「乳酸菌L.ラクティス プラズマ(以下、プラズマ乳酸菌)」(国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンターが所有するLactococcus lactis subsp. lactis JCM 5805のこと)を用いた、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、新型コロナ)患者に対する特定臨床研究成果を、4月28日に発表した。同特定臨床研究では、免疫細胞pDCが維持され、ウイルスの早期減少、嗅覚・味覚障害の改善を確認した。なお、同特定臨床研究における知見は、長崎大学・キリン共同で特許出願を行っている。

長崎大学副学長(新型コロナウイルス感染症対策担当)・長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授・長崎大学病院感染制御教育センター センター長の泉川公一先生

「長崎大学は、地球の健康のために貢献するべく、未知の感染症の克服も目標のひとつに掲げている」と、長崎大学副学長(新型コロナウイルス感染症対策担当)・長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授・長崎大学病院感染制御教育センター センター長の泉川公一先生が挨拶。「感染症対策は国防であるという視点は重要との考えから長崎大学高度感染症研究センターを設置。高度感染症研究センターの実験棟には特別厳重なセキュリティが施されている」と、建物が5mのフェンスで囲われた立ち入り禁止の実験棟が大学構内に存在するのだと紹介する。「実験棟内で研究を行う場合は、陽圧防護服の他、特別なインナースーツを着用し、特別なスーツラックに保管している」と、感染症を外部に漏らさないための設備が厳重に施されていると述べていた。

長崎大学副学長(新型コロナウイルス感染症対策担当)・長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授・長崎大学病院感染制御教育センター センター長の泉川公一先生

「新型コロナの感染者数は4月19日現在で、全世界で7億6374万140人に達し、死亡者数は690万8554人となっており、感染者数からの死亡率は0.90%になっている。一方、日本は3358万723人の感染者で、死亡者は7万4235人と0.22%の死亡率となっている」と、全世界に比べて死亡率が低いのが日本の新型コロナの現状なのだと力説する。「当大学では、新型コロナに対して、教育、地域貢献、運営、診療といった観点から関わってきた。また、河野茂学長が、衆議院予算員会参考人招致で、新型コロナ対策の意見を述べる機会も得た」とのこと。「この意見の中で、新型コロナの治療薬候補薬の開発・治験プロセスの遅延を訴えると同時に、完全な他国依存である他、パンデミック時に診療と治験の同時進行は困難を極めることを提言した。そして、人的、物的支援が必須で、企業にインセンティブを与えることも提案。特例容認よりも国産治療薬の早期承認の仕組みの導入を訴えた」と、医療・教育・研究という視点から意見を述べたと説明する。「そこで、当大学ではパンデミック発生時の100日でのワクチン供給を目指して、ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業に採択された。さらに、新薬開発についても様々な角度から研究を進めている」と、ワクチンの早期供給のための研究および新薬開発を行うことで、新型コロナのようなパンデミックが発生した際に対処できる基盤を構築していくのだと熱く語っていた。

長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 呼吸器内科学分野(第二内科)教授の迎寛先生

次に、新型コロナの研究を取り巻く社会環境について、長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 呼吸器内科学分野(第二内科)教授の迎寛先生が講演を行った。「新型コロナの現状について、第8波による流行は過ぎたが毎日約9000人の陽性患者が出ている」と、最近はまた徐々に再流行の兆しを見せ始めており、新型コロナの感染力の高さが非常に根強いのだと警鐘を鳴らす。「コロナウイルスのゲノム解析では、主流であったBA.5株が20%弱に減少し、他変異株が増加中となっている」と、新たな変異株が猛威をふるう兆候が見られるとのこと。「新型コロナの国内患者数累計(4月6日現在)は3350万42人で、国民の26.8%が感染した。また、国内死亡者数累計は7万4029人と死亡率0.22%になっている」と、新型コロナの死亡率は、ワクチン導入と治療の進歩によって減少したが、第8波では感染者母数が多く、高齢者罹患者が多かったことで、死亡率は上昇したと解説していた。「また、新型コロナの後遺症に関する調査では、退院後12ヵ月の時点で、何らかの罹患後症状は13.6%で、肺機能検査以上は7.1%、胸部CT検査以上は6.3%で残存していた」と、新型コロナは後遺症をもたらすウイルスであるとも指摘する。

長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 呼吸器内科学分野(第二内科)教授の迎寛先生

「5月8日から新型コロナは5類に移行すると政府は方針を発表した。だからといって新型コロナの強い感染力が変わるわけではない。発症2日前から10日間ほどウイルスを排出しているといわれ、とくに5日間は感染させるリスクが高いウイルスとなっている。それを踏まえた行動や配慮が必要となる」と、依然として気を緩めることがないようにする必要があると語る。「感染症対策は今後より自己責任となっていく。特に高齢者や子どもなどの免疫力が弱い人々を守るためにも一人ひとりの“うつらない・うつさない”といった意識が一層大切になる」と呼びかけた。「現在、新型コロナの治療薬として承認されている薬はすべて高額となっている。軽症に対する治療薬は保険診療となり、対象選定や薬剤価格の課題が多い」と、5類に移行することで適切な治療が受けられない人も出てくる可能性があると警告する。「さらに、昨年末からインフルエンザの感染者が一気に増えた。マスクやアルコール消毒等の徹底といった感染症対策は有効だったと考えられるが、それでも今回増加した原因の一つとして感染症対策の徹底によって集団免疫が低下したことが考えられる」と、新型コロナ以外の感染症についても注意が必要だと述べる。

「感染症には、免疫を維持することが大切である。この免疫維持についてプラズマ乳酸菌が有効であることが示唆されている。特に、プラズマ乳酸菌を摂取していた人が風邪・インフルエンザに罹った人数が少なく、また、罹患した際の症状が軽減されることが確認された」と、プラズマ乳酸菌は感染症から身を守る効果が期待できる研究結果もあるとのこと。「感染症流行の可能性が高まる今後は、ウイルス免疫を手軽かつ安全に高められる医薬品を探索することが社会的に強く求められている。様々なウイルスへの感染予防効果として、数多くのエビデンス・実績をもつ『プラズマ乳酸菌』が有望な候補と考えた」と、「プラズマ乳酸菌」を用いた新型コロナの軽症患者への臨床試験を実施した経緯について語っていた。

長崎大学 客員教授の山本和子先生

長崎大学 客員教授の山本和子先生は、新型コロナ患者に対するプラズマ乳酸菌を用いた症状緩和効果についての探索と題した講演を行った。「免疫の司令塔とされるpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)は、抗ウイルス物質(I型インターフェロン)の他、抗体産生機能のB細胞・形質細胞、外敵に侵された細胞を殺傷するキラーT細胞、他の免疫細胞へ信号を送り助けるヘルパーT細胞、異常細胞を殺傷するNK細胞に指示を出す。このpDCを活性化する乳酸菌(プラズマ乳酸菌)をキリンが発見した。プラズマ乳酸菌を添加すると、免疫の司令塔pDCが活性化して細胞表面に突起が発生する。これまでに、感染症に対するプラズマ乳酸菌の研究成果が報告されている」と、様々なエビデンスが発表されていて、実績がある乳酸菌がプラズマ乳酸菌なのだと解説する。「2021年5月に免疫活性化による感染予防の可能性について、呼吸器感染症における感染免疫の重要性と題した講演を行った。その際にキリンホールディングス ヘルスサイエンス事業部の藤原大介先生と意見交換を行ったところ、プラズマ乳酸菌による新型コロナの病態抑制が期待できるのではないかと考え、共同研究を行うことになった」と、特定臨床研究を行うことになった背景について語る。

PLATEAU STUDY 試験の概要

「試験では、新型コロナ患者100名に対し、プラズマ乳酸菌(4000億個/日)含有カプセルを14日間投与した層50名とプラセボカプセルを投与した層50名を観察した」と、20歳以上65歳未満の男女で、重症化リスクの高い患者は除外して行ったという。「長崎県でのオミクロン株BA.1の流行開始期(2022年1月)に症例登録を開始。オミクロン株BA.1の流行期間中に100症例の組み入れを完了して行った」とのこと。「その結果、自覚症状総合点(咳、呼吸困難感、倦怠感、頭痛、嗅覚・味覚障害、食欲不振、胸部痛)の変化量において、両群間に差は認められなかった。なお、オミクロン株に特徴的な症状(鼻水・鼻づまり、喉の痛み、発熱)は自覚症状項目に含まれていない」と、明確な違いはなかったという。「この中で、味覚・嗅覚障害については、プラズマ乳酸菌群で、9日目以降に嗅覚+味覚障害点が改善していた」と、自覚症状を個別に見てみると、違いがみられたのだと紹介する。「新型コロナウイルス量の変化率では、プラズマ乳酸菌群では4日目にウイルス量が減少していた」と、プラズマ乳酸菌を摂取し続けるとウイルス量は減る可能性が考えられると示唆する。「血中pDC存在比の変化率では、新型コロナの経過中に、プラセボ群でpDCが血中から減少したが、プラズマ乳酸菌群では維持されていた」と、pDCを維持する作用が確認できたと指摘する。

長崎大学 客員教授の山本和子先生

「今回の試験では、重篤な有害事象の報告はなく、非重篤なものが2件(下痢1件、蕁麻疹1件)あったが、いずれも軽度で、懸念される有害事象はみられなかった。また、適格性基準からの逸脱によって4症例を不適合と判断した。外来受診率については、プラズマ乳酸菌群で1例、プラセボ群で1例と両群間での差は認められなかった」と、有害事象・不適合・外来受診率について解説。「以上の点から、自覚症状の総スコアには効果を認めなかった。しかし、味覚・嗅覚障害の消失を早める効果が認められた。また、ウイルス量の減少を早める効果が認められ、pDCを血中に維持する効果が認められた。問題となる副作用は認められなかった」とまとめる。「新型コロナが感染症法の5類へ移行する。軽症患者に対し、より手軽に求めやすい治療や補助療法が必要となるが、現在処方可能な薬剤は処方体制・対象・価格等に課題が多い。それだけに、プラズマ乳酸菌カプセルの内服によって、pDC維持し、ウイルスの早期排出や味覚・嗅覚障害の改善などで新型コロナを取り巻く課題の解決への助けにつなげることができるのではないかと考える」と、今回の研究で得られた成果について特許出願を完了していると報告した。

長崎大学=https://www.nagasaki-u.ac.jp/
キリンホールディングス=https://www.kirinholdings.com/jp/


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