- Health&Medical2023/05/29 21:07
日本臨床矯正歯科医会、「顎矯正手術を併用する矯正歯科治療」をテーマにプレスセミナー、安全な顎矯正手術の術式など解説
矯正歯科専門開業医の全国組織である日本臨床矯正歯科医会は、「顎矯正手術を併用する矯正歯科治療」をテーマにプレスセミナーを5月22日に開催した。今回のセミナーでは、ゲスト講師として東京医科歯科大学歯学部長 大学院医歯学総合研究科 顎顔面外科学分野教授の依田哲也先生を招き、口腔外科の立場から安全な顎矯正手術の術式や、顎矯正手術の実際について講演を行った。また、日本臨床矯正歯科医会の三村博専務理事が、矯正歯科の立場から顎矯正手術を併用する矯正歯科治療について紹介した。
「顎変形症は、上あご(上顎骨)と下あご(下顎骨)の形や大きさの異常、両者のバランスによる咬み合わせの異常(咬合不正)と顔の変形などの症状を示すもの。症例としては、受け口になる『上顎後退症』『下顎前突症』、出っ歯になる『上顎前突症』『下顎後退症』、横ずれ(偏位咬合)が起こる顎骨の左右非対称などがある。歯並びの問題だけであれば歯列矯正で治療することも可能だが、顎変形症の場合は、手術による顎骨の矯正が必要になる」と、依田先生が、顎変形症とはどのような病気なのかを説明。「顎矯正手術の術式としては、上顎では、上顎骨を切って移動・固定するLe Fort 1型骨切り術が行われる。下顎の場合は、下顎骨の中に太い神経と血管があるため、三枚おろしのように骨を切り、移動・固定する。手術時間は5~7時間を要する。症例数は週平均5例、年間で約250例の手術が行われている」と、実際の手術映像も交えながら顎矯正手術について解説してくれた。
「顎矯正手術は、咬み合わせを良くするだけでなく、見た目のコンプレックス改善にもつながるため、術後に性格が明るくなったり、転職をして新しい仕事に就く人もいる」と、患者の人生を変える影響力のある手術でもあると強調する。「それだけに、医師には正確で安全な手術を行うことが求められる。例えば、割れてはいけないところで骨が割れると、異常出血により口腔内の腫れが増大し、上気道閉塞を起こす危険性がある。また、骨の移動が1㎜でも狂うと、うまく咬み合わなくなったり、思っていたのと違う顔貌になってしまうこともある」と、顎矯正手術には技術の修練が必要なのだと訴える。「正確で安全な顎矯正手術のために、特に重要なのが術前シミュレーションである。最近では、3Dコンピュータを使って骨移動量の設定とサージカルガイドの作製を行っている。上下顎の骨はCT撮影で3Dモデルを構築。歯の咬合面については、口腔内スキャナーで光学印象を採取し、顎骨の3Dモデルとマッチングさせる。そして、この高精度な3Dモデル上で骨切りや骨移動のシミュレーションを行う」と、3Dコンピュータを駆使することで安心・安全かつ正確な顎矯正手術を実現していると述べていた。
続いて、日本臨床矯正歯科医会の三村博専務理事が、顎変形症の手術前後の矯正歯科治療と実際の症例について紹介した。「顎変形症に対しては、矯正歯科によるカムフラージュ治療だけでは限界があり、例えば上顎前突症の治療では、ロングフェイスや上下顎骨の前後関係の異常などを起こすことがある。こうならないためにも、顎矯正手術を考慮した治療が重要になる」と、顎変形症の治療は、矯正歯科治療と顎矯正手術の併用が望ましいと話す。「術前の矯正治療としては、上下の歯列の形態を整え、手術で目標とする咬合が得られるようにする。具体的には、叢生の解消や前歯歯軸の改善、幅径の調整などを行う。その後、矯正歯科と口腔外科のカンファレンスを実施し、患者の同意を得て、顎矯正手術となる。術後の矯正治療では、咬合を仕上げると共に、後戻りを評価しながら顎間ゴムなどで外科的に再配列した顎骨を安定させる」と、顎矯正手術に際しては、矯正歯科医による綿密な治療計画と術前・術後の矯正歯科治療が必須であると説明した。
「自分が顎変形症だと思った場合には、大学病院の矯正歯科もしくは口腔外科、公的病院の口腔外科、顎口腔機能診断施設の指定を受けている矯正歯科医院を受診してほしい。中でも、顎口腔機能診断施設については、各地域の厚生局のホームページから病院の施設基準をチェックすることができる」とのこと。「また、日本臨床矯正歯科医会のホームページでは、会員医院検索から全国の顎口腔機能診断施設を持つ矯正歯科医院を簡単に探すことができるので、ぜひ活用してほしい」と、顎変形症が疑われる場合は、顎口腔機能診断施設のある矯正歯科医院を受診することを推奨していた。
日本臨床矯正歯科医会=https://www.jpao.jp/