打ちやすさを徹底追求したカシオ計算機の「人間工学電卓」、操作面を3°傾けた新発想の電卓はどのように生まれたのか

「人間工学電卓」をPRする、左から:カシオ計算機 教育関数BU 商品戦略部 商品企画室 リーダーの玉本真一氏、同 教育関数BU 商品戦略部 商品企画室の野村美月氏

カシオ計算機は、ユーザーの用途に合わせて、一般電卓や関数電卓、本格実務電卓など様々な種類の電卓をラインアップしている。その中でも、手へのフィット感や打ちやすさに徹底的にこだわり、操作面を3°の角度で傾斜させた電卓が「人間工学電卓」だ。2022年10月の発売当初は右手用のみだったが、消費者からの要望に応え、今年3月には新たに左手用もリリースしている。そこで今回、操作面を“傾ける”という新発想の「人間工学電卓」がどのようにして生まれたのか、その背景や開発時のエピソード、今後の展望などをカシオ計算機 教育関数BU 商品戦略部 商品企画室 リーダーの玉本真一氏と、同社 教育関数BU 商品戦略部 商品企画室の野村美月氏に聞いた。

操作面を3°傾けた「人間工学電卓」

今やスマートフォンにも標準搭載され、計算したいときにいつでも手軽に使えるようになった電卓。一方で、企業の経理、財務担当者や、金融機関などのプロユーザーからは、高度な計算機能を備えた製品が求められ、各業務のニーズに応じた様々な電卓が市場に展開されている。こうした中で、電卓は計算専用機としての成熟期に入り、「製品改良の余地がない」「革新的な進化が難しい」といった状況が続いていたという。

「当社でも、電卓の新規モデルの開発は長らく行われていなかった。そこで、電卓の使用状況やニーズについて実態を探るべく調査を実施したところ、電卓使用者の75%が、購入時に『打ちやすさ』を気にしていると回答していた。この結果から、操作性に改良の余地があるのではないかという気付きを得た。さらに、電卓の操作は『右手のみ』で、『3~5本の指を使う』という回答が多かったことにも着目。これをきっかけに『電卓操作性向上プロジェクト』を立ち上げ、右手3~5本の指で電卓を使用するヘビーユーザーをターゲットに、打ちやすさを追求した新たな電卓開発へのチャレンジがスタートした」と、「人間工学電卓」誕生のきっかけは、ユーザーの声にあったと野村氏は語る。

開発にあたっては、同社の電卓初号機「14-A」にまで遡り、社内資料やパンフレットなどから設計の原点を探るとともに、当時開発に携わったOBへのヒアリングも実施した。さらに、自社だけでなく、第三者の客観的な視点も取り入れて電卓の打ちやすさを追求するべく、日本最大級の研究機関である国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)と共同研究を行ったという。玉本氏は、「当社製品の『本格実務電卓』をベースに開発を進めたが、同製品はすでに打ちやすさで高い評価を得ており、ここからさらなる改良点を見つけるのは非常に難しい作業だった。そこで、産総研と協力し、電卓をよく使うユーザーを対象に、電卓の操作に関する検証実験を行った。実験では、被験者の指にセンサーを取り付け、モーションキャプチャーカメラなどを駆使して膨大な操作データを収集。産総研と共同で、電卓を打つ際の手や指の状態、キーの押し込み方向、筋活動量などを徹底的に解析した」と説明する。

そして、共同研究の結果、辿り着いたのが「電卓の操作面を3°傾ける」ことだった。「操作データを解析していく中で、『電卓を操作する際は、打つ人の手は外側に傾いている』ということがわかってきた。この点に着目し、手に沿って電卓の操作面も傾ければ、さらに打ちやすさが向上するのではないかと考えた。そこで実際に、操作面に角度をつけたプロトタイプを製作し、検証試験を行ったところ、被験者から『角度があったほうが打ちやすい』との評価を得ることができた」と野村氏。「検証実験では、1°から9°まで角度を変えた電卓を操作してもらったのだが、データ上では9°が最も打ちやすいという結果が出ていた。しかし、操作面を9°まで傾けると、見た目の違和感が大きく、心理的ストレスへの影響が懸念された。こうした点も踏まえ、“人が電卓に合わせるのではなく、電卓が人に合わせる”をコンセプトに、単なる打ちやすさだけでなく、外観デザインも含めたトータルバランスを追求した結果、3°の傾きがベストであると判断した」と、なぜ「3°」になったのか、その理由についても教えてくれた。

また、「操作面の傾き」に加えて、もう一つの特長として見逃せないのが、「人間工学階段キー」を採用している点だ。「検証実験を進める中で、『傾いた電卓を操作した際にもキーを押す方向は垂直のまま』であるということが明らかになった。これに対応するために、キーをどう設計し、配置すればよいのか、人間工学を突き詰めて、何度も試行錯誤を重ねた」と、玉本氏は当時を振り返る。「電卓の基盤は水平で、操作面は3°に傾いているため、キーに段差をつけて配置し、荷重を調整する必要があった。さらに、垂直方向に打ちやすいように、キー自体は垂直に配置し、天面もフラットにした。この試作機でテストを行ったところ、8割以上のユーザーから『従来品よりも打ちやすい』との回答を得ることができた」と、「人間工学階段キー」の開発秘話を語った。

「人間工学電卓」右手用ジャストタイプ「JE-12D」(ブラック/ホワイト)

こうして、開発に着手してから約4年半の歳月をかけて、ついに「人間工学電卓」が完成。2022年10月に右手用のジャストタイプ「JE-12D」(ホワイト/ブラック)とデスクタイプ「DE-12D」(ホワイト)をリリースした。

「人間工学電卓」右手用デスクタイプ「DE-12D」(ホワイト)

玉本氏は、「発売後にユーザーからどんな反響があるのか不安だったが、好意的な声が多く寄せられ、まずはホッと胸をなでおろした。一方で、その中には『左手用が欲しい』という要望も出ていた。左手用については、利き手の絶対数が少ないため製品化は検討中だった。しかし、電卓メーカーとして、ユーザーからのニーズに応えるべく、すぐに左手用の開発にも着手。今年3月に左手用のジャストタイプ『JE-12D-L-WE』とデスクタイプ『DE-12D-L-WE』を発売した」と、現在は右手用と左手用から選べるラインアップを揃えているとアピールした。

左から:「人間工学電卓」右手用ジャストタイプ「JE-12D」、左手用ジャストタイプ「JE-12D-L-WE」

「人に寄り添い、打ちやすさに徹底的にこだわった『人間工学電卓』は、計算する頻度が高く、正確性が求められる業務に最適な電卓だと考えている。例えば、企業の経理部門や財務部門、会計士や税理士の他、簿記を勉強している学生にもおすすめとなっている。『人間工学電卓』の特設サイトでは、これらのターゲットユーザーに向けて製品の特長やこだわりを紹介するWeb動画を公開しているのでぜひチェックしてほしい」と、野村氏は、「人間工学電卓」のメリットがさらに多くのユーザーに伝わることに期待を寄せていた。

フラッグシップモデル「S100」

今後の電卓の可能性について玉本氏は、「今回は、操作面を傾けることで打ちやすさを向上し、電卓の新たな方向性を見出したが、人間工学という観点からは、まだまだ改良の余地はあると感じている。また、人間工学とは異なるアプローチでは、高級感や品質を追求したフラッグシップモデル『S100』を展開している。『S100』は、メイドインジャパンにこだわり、素材からデザイン、機能まで、すべてにおいて妥協せず、電卓の価値を最大化した、他にはない製品となっている。当社では、これからも電卓というカテゴリーの中で、既成概念にとらわれず、さらなる進化の可能性にチャレンジし続けていく」と意欲を示した。

カシオ計算機=https://www.casio.com/jp/
「人間工学電卓」特設サイト=https://www.casio.com/jp/basic-calculators/ergonomics/


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