- Leisure&Travel2025/03/12 16:38
ビーマップ、「デジタルきっぷ」を活用した無償QRコード乗車券サービスに国内外から注目、鉄道と流通の連携で街に賑わいを創出

昨年5月、鉄道各社が2026年度以降に磁気式乗車券(近距離券)を廃止し、QRコード乗車券に切り替えることを発表した。現在は南海電鉄が先行して導入しているが、数年後には全国の主要路線に普及し、乗車券のデジタル化が急速に進むとみられている。こうした中、ビーマップでは、南海電鉄と共同開発したQRコード乗車券「デジタルきっぷ」を活用した新サービス「無償QRコード乗車券」の実証事業を昨年11月から開始した。「無償QRコード乗車券」では、商業施設で買い物をすると電車賃が無料になるといったサービスが提供可能で、公共交通機関と流通が連携した先駆的な取り組みとして、国内外から注目が集まっている。そこで今回、「無償QRコード乗車券」の開発背景や今後の展望について話を聞いた。
「無償QRコード乗車券」は、QRコードを用いた「デジタルきっぷ」を活用し、商業施設や公共施設、イベントなどの利用時に、電車などの交通機関の運賃を割引または無料にすることで、施設と交通機関の双方の利用を促すと共に、実際の集客につなげて街の賑わいを創出することを目的としたサービス。通常、商業施設に行くための運賃は消費者が支払うが、同サービスでは、集客したい施設側が「デジタルきっぷ」の運賃を負担する「受益者負担サービス」となる。

ビーマップ 代表取締役社長の杉野文則氏は、「ショッピングモールなどの商業施設では、買い物をすると駐車場の料金が無料または割引になるサービスが当たり前のように提供されている。しかし、電車で訪れた人には何のサービスもなく、往復の電車賃はすべて消費者の負担になっている。以前から、この状況に疑問を感じていた。そうした中で、南海電鉄がQRコード乗車券を導入検討していることを知り、沿線の商業施設で買い物をすると電車賃が無料になるサービスをデジタルで実現できたら面白いと考えた。これが『無償QRコード乗車券』の発想の原点になった」と、「無償QRコード乗車券」サービスが生まれたきっかけを語る。「もともと南海電鉄では、インバウンド観光客の増加に対応するために、いち早くQRコード乗車券の導入を進めていた。そこで、当社から提案したところ想いが一致し、共同で『無償QRコード乗車券』のサービス開発に取り組んだ」と、南海電鉄との共同開発に至る経緯についても説明した。
「無償QRコード乗車券」のビジネススキームは、通常は消費者が鉄道会社に支払っている運賃を、集客したい商業施設などが負担するというもの。これによって、例えば消費者がその商業施設で3000円以上買い物をすると、帰りの電車賃が無料になる「デジタルきっぷ」を提供するといったサービスが可能となる。「商業施設にとっては、『デジタルきっぷ』を集客ツールとして活用することで、消費者の来場促進や購入金額のアップに期待できる。また、鉄道会社にとっては、『無償QRコード乗車券』サービスを通じて乗客者数の増加が見込まれる。そして消費者は、帰りの電車を無料で利用できるようになり、まさに『win-win-win』のビジネススキームを実現できると考えている」と、「無償QRコード乗車券」サービスのメリットを強調した。

ビーマップでは現在、「無償QRコード乗車券」の商用サービス化に向けた取り組みを加速させており、昨年11月1日から12月15日の期間には、南海電鉄、大阪・なんばエリアの飲食店、小売店、住宅展示場などの21店舗と連携し、「無償QRコード乗車券」の実証事業を実施している。「この実証事業では、目的地への来訪を促進させる『にんじん式』と、目的地での消費金額向上を図る『ごほうび式』の2つのサービスモデルを展開した。過去に実施した『無償QRコード乗車券』関連の施策でも、例えば、高野山エリアを対象とした実証実験では、地域情報誌で高野山行きのデジタルきっぷをプレゼントする『にんじん式』と、高野山での合計4500円以上の消費でデジタルきっぷを進呈する『ごほうび式』の両方を実施。また、ウォーキングアプリの『へるすまーと泉北』では、歩数ポイントをデジタルきっぷに交換できる『ごほうび式』を実施してきている」と、実証事業の概要について紹介するのは、同 事業推進本部 モビリティ・イノベーション事業部長の三谷卓哉氏。
「高野山エリアの実証実験では、デジタルきっぷをプレゼントした170名が高野山に訪問し、20%は新規顧客だった。このことから、デジタルきっぷを無料提供すると一定数の人が目的地へ移動することがわかった。また、訪問者170名のうち、約40%が消費条件を達成。条件達成者の消費金額は平均5800円で、通常の消費金額の約2.3倍に達した。これによって、一定数の人はデジタルきっぷを目的に消費額を増やすことが立証された」とのこと。「『へるすまーと泉北』の実証実験では、アプリダウンロード数が4倍に増加し、デジタルきっぷ交換者の平均歩数は、一般的な平均歩数の7742歩/月を上回る9200歩/月に達していた。この結果から、デジタルきっぷをもらえることに価値を感じる人が多いことが示唆された」と、実証事業で得られた成果を解説してくれた。

また、ビーマップでは昨年9月に、ドイツ・ベルリンで開催された国際鉄道技術見本市「イノトランス 2024」に「無償QRコード乗車券」サービスのブースを出展し、海外の鉄道関係者からも大きな注目を集めたという。杉野氏は、「海外での反響の大きさには、私自身驚いている。実は海外では私鉄がほとんどなく、ほとんどが国営や公営の鉄道会社となっている。そのため、設備が古かったり改札機がない駅も多く、無賃乗車が横行していたり、膨大な設備費用が必要になるなど様々な課題を抱えているのが実状だった。デジタルきっぷは、QRコードリーダーを改札に導入するだけなので設備投資が抑えられることに加え、商業施設と連携するという発想もなかったことから、『無償QRコード乗車券』サービスのビジネススキームに非常に興味を持ってもらえたと感じている」と、海外展開にも大きな手ごたえを感じたと話していた。
今後の展望については、「2026年以降、全国の主要鉄道会社で磁気式乗車券が廃止され、QRコード乗車券に切り替わっていくことはほぼ確実となっている。これに向けて、まずは早期に実証事業を終えて、商用サービスの提供を目指す。現在、15社の鉄道会社を当社に招いて『無償QRコード乗車券』サービスの勉強会を行っている他、同サービスで集客したい商業施設や小売店など受益者側の企業に対するアプローチも積極的に進めている。将来的には、鉄道+流通+街のコラボによって移動をタダにし、人が賑わい続ける街づくりに貢献していく」と力を込める。
すでにビーマップは、アーティストと都市を連携するプロジェクト「THE NEXT TOWN」を推進しており、2023年に開催されたSEVENTEENのツアーでは、大手鉄道会社3社(東京メトロ、名古屋鉄道、西日本鉄道)と連携した「THE CITY 2023」の取り組みを実現。7万人を超える大規模なファンの「周遊」を担い、地域経済の活性化につなげている。また、2024年に名古屋鉄道で実施した乃木坂46のデジタルスタンプラリー「THE NOGIZAKA46 TOWN」では、ライブ約1ヵ月前からの開催にも関わらず遠方からファンが訪れ、総参加者数は1万人を突破した。この他に、流通と連携した取り組みとしては、セブン-イレブンのセブンクーポンと連携したスクラッチキャンペーンを、首都圏JR路線を中心に中吊り広告で展開。スーパーマーケットのベルクでは、タレントを起用したさまざまな流通キャンペーンを実施し、売上アップに貢献するなど豊富な実績を持っている。

杉野氏は、「これまでの都市連携プロジェクトや流通キャンペーンを通じて培ってきた知見やノウハウを結集し、『無償QRコード乗車券』サービスを全力で立ち上げていく。今年中には、複数の鉄道会社で実証事業を行うことを計画している。例えば、ある鉄道会社からは、鉄道沿線の住宅物件を購入すると沿線の電車賃が無料になるといったサービス案も出てきている。また、大手流通と連携した実証事業も今年中に展開したいと考えている。さらに、次のステップでは、増加するインバウンド観光客をターゲットにしたサービスも検討している。今年の『無償QRコード乗車券』サービスの展開を楽しみにしてほしい」と、商用サービスの早期実現に向けて、実証事業の取り組みを加速していくと意欲を見せた。
ビーマップ=https://www.bemap.co.jp/
無償QRコード乗車券 (とくチケ)=https://www.mobility.bemap.co.jp/maas-tokuticke-jp
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