中谷財団、「生成AIを教育にどう活かし、取り組むのか」をテーマにセミナー開催、AI活用で変わる「未来の教室」とは

左から:中谷医工計測技術振興財団の松森信宏事務局長、愛媛大学教育学部附属中学校 教諭の真木大輔先生、関西学院大学副学長・情報化推進機構 機構長の巳波弘佳先生、東京農業大学 教職・学術情報課程 教授の山口晃弘先生、神戸大学人間発達環境学研究科 教授の伊藤真之先生

BME(Bio Medical Engineering)分野の発展を願い、表彰事業をはじめ各種研究助成、若手研究者の支援、国際交流助成など幅広い助成事業を展開している中谷医工計測技術振興財団(以下、中谷財団)は、「生成AIを教育にどう活かし、取り組むのか」をテーマとした科学教育セミナーを10月16日に開催した。GIGAスクール構想が進み、学校の授業でICT教育が必須となっている中、今回は、生成AIの教育的活用に関する研究や、AI活用の人材育成を担当している先生を招き、現場の声を交えたパネルディスカッションを行った。

パネルディスカッションでは、神戸大学人間発達環境学研究科 教授の伊藤真之先生がコーディネーターを務め、愛媛大学教育学部附属中学校 教諭の真木大輔先生、関西学院大学副学長・情報化推進機構 機構長の巳波弘佳先生、東京農業大学 教職・学術情報課程 教授の山口晃弘先生がパネリストとして参加し、教育現場の先進的な事例を取り上げながら、「未来の教室」はどう変化するのか、また、生成AI活用の効果と課題などについて意見を交わした。

愛媛大学教育学部附属中学校 教諭の真木大輔先生

まずは、教育現場における生成AIの活用状況や取り組みについて紹介してもらった。愛媛大学教育学部附属中学校の真木先生は、「当校では理科授業で生成AIの教育的活用を進めており、教務支援では『AIリフレクション』、学生活用では『AI学習パートナー』を導入している。『AIリフレクション』は、生徒が授業の振り返りを入力すると、AIが評価してフィードバックを行う。このフィードバックを先生が確認、修正して、生徒の振り返りログに返却する。そしてAIが振り返りデータ全体を分析し、教師の授業改善を支援する。一方、『AI学習パートナー』は、チャットボット形式で、生徒からの質問に対して、答えではなく関連する基礎知識や原理を提示する。また、生徒の思考を促す質問を生成することで、実験や観察などの探究活動を提案している」と、教師側と生徒側それぞれでAIの活用を推進しているという。

関西学院大学副学長・情報化推進機構 機構長の巳波弘佳先生

関西学院大学の巳波先生は、「AIに関わる人材は『AI研究・開発者』『AIスペシャリスト』『AIユーザー』の3類型に分類されると考えている。このうち、AIを活用して実際のビジネス課題を解決する人材となるのが、システム開発やデータ分析を行う『AIスペシャリスト』と、AIを活用したサービスや製品を企画・提供する『AIユーザー』である。これからは、AIを『作る』のではなく『使いこなす』人材のニーズがさらに高まるとみている。そこで当校では、AI活用人材を育成するための『AI活用人材育成プログラム』を作成し、学外にも広く提供している。すでに100社以上に採用され、数千人の社会人が受講している」と、AIを使いこなす人材の育成に力を注いでいると教えてくれた。

東京農業大学 教職・学術情報課程 教授の山口晃弘先生

東京農業大学の山口晃弘先生は、「日本では、GIGAスクール構想によって1人1台端末の整備がほぼ完了し、学校での利用頻度も高まりつつある。また、家庭での利用も進み、学習の幅が広がってきている。こうした中で、学校におけるAI利活用の方向性としては、学習と評価の一体化が挙げられる。例えば、生徒一人ひとりの理解度に合わせて、AIが学習速度を調整し、学習のまとまりごとに総合的にAIが分析・評価を行う。また、知識だけでなく、問題解決力や創造性などのスキルも重視して評価し、生徒の関心に応じてAIが学習材料をカスタマイズする。そして、AIが即座に学習の進捗を分析し、リアルタイムのフィードバックで生徒の状況を把握することで、常に適切なアドバイスを提供することが可能になる」と、AI活用によって学習と評価の最適化を図ることができるとの考えを述べた。

神戸大学人間発達環境学研究科 教授の伊藤真之先生

各校の生成AI活用の取り組みを受けて、神戸大学の伊藤先生は、「ChatGPTとその他生成AIを教育で活用する際の利点と欠点をまとめた調査資料によると、利点として『個別指導ができる』『生徒のエッセイを自動採点』『多言語への翻訳』『双方向の学習』『適応型学習が可能』が挙げられた。一方、欠点としては『対人交流の不足』『理解・創造性の不足』『教師データのバイアス』『データへの依存』『文脈理解の不足』『個別指導能力の限界』『プライバシーやデータセキュリティ』といった点が懸念されている」と指摘。この調査結果を踏まえながら、教育で生成AIを積極活用することの効果と課題について議論を深めた。

左から:愛媛大学教育学部附属中学校 教諭の真木大輔先生、関西学院大学副学長・情報化推進機構 機構長の巳波弘佳先生、東京農業大学 教職・学術情報課程 教授の山口晃弘先生、神戸大学人間発達環境学研究科 教授の伊藤真之先生

そして、「未来の教室」はどのように変化していくのかを聞くと、真木先生は、「数年後の『未来の教室』は、学習にAIを活用することで、生徒においては個別最適な学びが促進され、探求学習と創造性の深化が進むと考えている。また、言語の壁を越えた交流も活発になると感じている。教師にとっては、業務効率化と負担軽減が期待できると共に、多様な評価方法を導入できるようになる。さらに、教師の自己研鑽ツールとしてもAIが活用されていく」との見解を述べた。

巳波先生は、「知識の習得や基本演習は、バーチャルラーニングでいつでもどこでも学べるようになる。また、AI活用によって個別最適化された学習やチャットボットによる学習支援を行う。高度な学習や問題解決型学習(PBL)については、Webミーティングやメタバースも組み合わせながら、ひざを突き合わせてチームで実践的に行っていく。ここでは、AIがコミュニケーション促進を支援する」と、知識習得のための訓練や授業支援はAIに任せ、教師は全体設計とファシリテーションを担うことになると「未来の教室」のイメージを語った。

山口先生は、「『未来の教室』では、教師の役割が進化すると考えている。教師は、生徒の対話や協働学習を促進するファシリテーターの役割を担いながら、メンターとして個々の生徒の成長をサポートし、キャリア指導にも注力していく必要がある。さらに、AIツールを効果的に活用し、授業の質を高めていくために、AI活用のエキスパートとしての能力も求められる。特に理科の授業では、探求的な学びや、自然現象などの観察・実験にAIを道具として役立てていくことが重要になる」と、AIを活用して教師自身が進化していく必要があると訴えた。

中谷医工計測技術振興財団=https://www.nakatani-foundation.jp/


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