- Study&Work2025/03/24 11:01
令和6年能登半島地震から1年、石川県で応援消費ロゴマークを活用した消費喚起キャンペーンを開催

昨年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」。最大震度7の大規模な地震によって、石川県を中心に津波や土砂災害、家屋倒壊など、多くの被害が生じた。地震による石川県の経済損失は、GDP換算で約1000億円にも上るといわれている。震災から1年という節目を迎えようとしている現在、復興促進のためにも、石川県は県外・国外から多くの人に来てもらったり、直接またはオンラインでの消費で経済を応援してもらいたいと考えている。そこで、石川県では、復興につながる消費拡大に向け、「能登のために、石川のために応援消費おねがいプロジェクト」を昨年2月から実施している。今回、同プロジェクトで応援している店舗や商品、人について紹介しよう。

令和6年能登半島地震によって、能登はもとより、金沢以南でも飲食や観光、県産品の製造・販売を行う事業者の売り上げが大幅に減少したことを受け、石川県では共通のロゴを店舗や商品に貼ってもらうことで、消費活動を通じた応援の機運を高める「能登のために、石川のために応援消費おねがいプロジェクト」を実施している。
能登、石川を応援する観光業・飲食店・販売店の目印として、同ロゴマークを店頭等に掲出してもらい、買って、食べて、飲んでもらうことで、応援の輪が広がっている。

石川県では多様な産業が発展し、経済を支えてきた。農業では、すいか、だいこん、さつまいも、トマトといった野菜に加え、なしやぶどうのような果物も生産されている。また、「ひゃくまん穀」や「ゆめみづほ」といったオリジナル品種をつくる米どころでもある。さらに、長い海岸線という地形と、対馬暖流の影響で漁場が豊富な石川県では、水産業も盛ん。81の港があり、スルメイカ、ブリ、ズワイガニ、甘エビなど、様々な海の幸が水揚げされている。加えて、石川県を形作る重要な要素が、伝統的工芸品。輪島塗、九谷焼、山中漆器、加賀友禅、金沢箔など、計36もの伝統的工芸品があり、古くから伝わる技術が現代に受け継がれている。地震によって、農地や港の損壊、工芸品の工房の被災など、各産業で大きな被害が生じたが、各地で復興に向けた動きが進んでいる。今年元日には、輪島市で追悼式典を実施。震災から1年が経過した今、復興をより進めていくためにも、石川県の産業を支える応援に期待を寄せている。
石川県には、古くからの歴史を持つ温泉地や、美味しい食にお酒、伝統的な特産品など、豊富な観光資源がある。ここでは、それぞれが震災によって被害を受けながらも、今まで受け継がれてきた形を守ったり、震災を経て新たに進化させたりしながら、復興に向けて前進している石川県の観光・食・伝統的工芸品を紹介しよう。
国内外問わず多くの観光客に旅行先として人気の高い石川県。震災に見舞われながらも、復興に向けて取り組んでいる「応援消費プロジェクト」対象の観光スポットやツアーが増えている。

和倉温泉(七尾市)は、1200年の歴史を持つ温泉地。多くの老舗旅館が被災し、宿泊者などの受け入れを休止していたものの、現在では組合に加盟している22軒の施設のうち5軒が営業を再開。昨年12月には仮設商店もオープンした。

のとじま水族館(七尾市)は、施設損壊によって、約4000匹の生き物が死ぬなどして、休業していたが、一部で営業を再開。ジンベエザメ等展示の生き物を徐々に増やしている。

千里浜なぎさドライブウェイ(宝達志水町~羽咋市)は、国内唯一、世界でも珍しい波打ち際を自動車で走ることができる海岸。震災後も営業を続けており、旅の記念に映画のワンシーンのような光景を撮影できる場所として観光客を呼び込んでいる。
応援ツアー「のと鉄道語り部列車」は、「ほっこく観光」主催のもと、復興に向かって歩みを進める各所を訪ねるツアーを開催。貸切バスで穴水町の「能登ワイン」や能登の空の玄関口「のと里山空港」を来訪したり、「能登里山里海ミュージアム」で能登の祭りや自然・文化を学んだり、さらに「のと鉄道語り部列車」に乗車して語り部から震災体験談を聞くことができるツアーとなっている。石川では「語り部列車」以外にも、阪急交通社主催の復興支援ツアーなど、旅行会社と協働で石川各地の復興につながるツアーを展開している。
石川県観光連盟では、震災後も人々に訪れてもらうためにHPで「今いける能登」を紹介。テイスティング体験やお土産も人気な穴水町のワイナリー「能登ワイン」や、「UFOのまち」として知られる羽咋市で、宇宙から帰還した現物の宇宙船などを展示している博物館「コスモアイル羽咋」など、震災後も様々な体験ができるスポットを紹介している。
石川県観光連盟担当者は、「令和6年元日に発生した能登半島地震では、石川県能登地域を中心に甚大な被害が発生した。現在、多くの人々からの支援を受け、復興に向けた取り組みが少しずつ進んでいる。営業を再開する施設も増え、民間の旅行会社による復興応援ツアーの実施も始まった。また、石川県観光サイト『ほっと石川旅ねっと』では、『今行ける能登』と題し、能登の最新情報を発信している。12月6日からは、能登地域の通行可能な交通ルートや交通手段、そして現在訪れることができるスポットをデジタルマップで確認してもらえるようになった。被災地の早期復興を願い、人々にぜひ能登を訪れてもらえればと思う」とコメントしていた。

ズワイガニや甘エビ、ブリといった海の幸、日本酒にワイン、伝統的な製法で作られる天然塩や醤油など、食材の魅力にあふれる石川県は“食の宝庫”とも呼ばれている。地震による影響では、地盤隆起による休漁や荷捌所の被災、ワイナリー・酒蔵の損壊、塩田への被害など、多くの生産現場で被害が生じたが、現在では少しずつ生産が再開されており、復興に向かっている。
復興に向かう石川。ここでは、地元の食材を使い、石川を盛り上げようとしている飲食店や料理人を紹介しよう。
芽吹(輪島市)は、石川県輪島市で、震災直後から炊き出しを続けてきた地元の料理人や農家、漆器店員ら15名でオープンしたレストラン。炊き出しによって生まれた関係性を基に、地震で営業再開をあきらめた居酒屋を修繕し、石川の食材を使った料理を提供している。現在もメンバーそれぞれの店は再開目途が立っていない中、輪島市の復興を願って挑戦を続けている。

すずキッチン・すずなり食堂(珠洲市)は、震災で営業を続けられなくなった地元の飲食店4店(グリル瀬戸、レストラン浜中、庄屋の館、典座(てんぞ))が、珠洲市野々江町「道の駅すずなり」に仮設店舗として弁当店と食堂をオープン。地元住民や復興事業者、ボランティアにとって待望の飲食店となった。食堂では平日30食限定の日替わり定食「気まぐれランチ」や、能登の魚介を使った看板メニュー「福幸(ふっこう)丼」が人気となっている。代表の坂本信子氏は、「この先、珠洲に残るためにもここで仮設店舗を開かなければダメだと思った。復興には飲食店が必要。珠洲は壊れてしまった景色の中に、それでも美しさを感じる場所がある」とコメントしている。

レストランブロッサム(七尾市)は、家族経営の老舗洋食店。震災で閉業していたものの、クラウドファンディングを受け開業した。オンラインショップでは能登の天然塩を使用したスクチーズケーキが全国で注文される人気メニューになっている。現在は第二弾としてドレッシングの商品化も進行中。一家の長男でシェフの黒川恭平氏は、「被災地の状況を知ってもらうきっかけになれば」と35歳以下の若手が競う料理コンテスト「REDU-35」にエントリーし上位5人に選出された。黒川氏は、「地元企業や料理人、生産者、そして炊き出しで来てくれた仙台の料理人の人々と協力して、『復興能登おせち』を企画した。正月だからこそ、能登の人が前を向いて頑張っている姿を感じてもらえたと思う。今後も、能登の頑張りに関心を持ってもらいたい」とコメントしていた。

パリで金賞獲得した石川の食材を使ったショコラは、七尾市出身のパティシエ 辻󠄀口博啓氏が、復興を願い、能登地方の素材を使った新作ショコラ。フランス・パリであった品評会に出品し、最高評価の金賞を受賞した。素材として能登ワイン(穴水町)、数馬酒造(能登町)のお酒、鳥居醬油店(七尾市)のしょうゆ、あんがとう農園(中能登町)のレモンマリーゴールド、珠洲製塩(珠洲市)の塩、イチジク、柚子など計9種類を使用している。昨年1月中旬から辻󠄀口氏のショコラ専門店「ルショコラドゥアッシュ」の各店舗やオンラインショップ、全国のバレンタイン催事などで販売している。辻󠄀口氏は、「昨年1月1日に発生した能登半島地震。多くの人命を奪い、地域社会に大きな傷跡を残した。能登の豊かな素材を使い、『能登半島への感謝と復興を願う』をテーマに4粒のショコラを作った。被災された生産者の人への復興応援の思いもショコラに込めている」とコメントしている。
石川県には、輪島塗、九谷焼、山中漆器、加賀友禅、金沢箔など、計36もの伝統的工芸品が存在する。国内外を問わずに評価を受けてきた石川県の様々な伝統的工芸品だが、能登に限っては輪島塗、珠洲焼、七尾仏壇、能登上布、和紙が該当する。地震による生産設備の損壊といった被害が各地で発生。窯やろくろなどの道具が壊れたり、特に輪島塗の工房のほとんどが被災し大きな被害を受けた。ここでは、震災によって一時は存続が危ぶまれながらも、新たな販売や展示で復興を遂げようとしている石川の伝統的工芸品について紹介しよう。

田谷漆器店(輪島市)は、江戸時代から、寺社仏閣、料亭や旅館で使われる漆器の製作・販売・修理を手がけてきた輪島塗の老舗。店舗や工房が被害を受け、商品や職人道具も多く失われた中、十代目の若き経営者である田谷昂大氏が、東京での展示販売やネット販売を精力的に行い、輪島塗という文化の復興に向けて活動している。

九谷焼 鏑木公式サイト「かぶらきでしか買えない」(金沢市)は、220年以上続く九谷焼の商家「鏑木」が、伝統工芸を守り、職人の生活や仕事を守るという使命のもと、被災した人々の作品を販売する特設ページとしてオープンした。九谷焼はもちろん、石川で育まれてきた伝統工芸を販売している。また、公式サイトの売り上げの一部は石川県内の伝統工芸支援に充てられ、石川全体の伝統的工芸品が復興していくための一助となっている。八代目当主の鏑木基由氏は、「現在、『折鶴プロジェクト』『七転び八起きプロジェクト』というプロジェクトが控えている。平和の象徴でもある『折り鶴』、そして何度くじけず立ち上がる『七転び八起きのダルマ』、この2つをテーマに新たな商品群を開発中。これまでは震災の中で無事だった品物を預かって販売していたが、今回から輪島塗や九谷焼の職人たちに新しい仕事を生み出していくことを目標としている」とコメントしている。

珠洲焼と能登ヒバ倒木を使ったアロマセットは、地震で割れた珠洲焼の破片を使ったアロマディフューザーと、能登ヒバの倒木から抽出したアロマオイルを組み合わせた製品。産地の復興を支援する事業として、廃棄される運命の2つの素材を組み合わせて、震災の記憶を伝えるメモリアルな製品をつくり、さらに制作を仮設住宅の被災者の人々が行うことで、コミュニティ内での交流促進を目指す。震災による被害を逆手にとった同製品は、クラウドファンディングの返礼品として発送を予定している。担当者は、「割れた珠洲焼の作品に、新しい価値を見出せたと思う。豪雨の影響もあったが、引き続き、珠洲焼作家が制作を進めていけるように頑張りたいと思う」とコメントしている。

Rediscoverprojectによる金沢21世紀美術館(金沢市)への出展では、石川県の伝統工芸に携わる職人や窯元、製造元等が集い、真の多様性を再発見することを目的に結成された団体「Rediscoverproject」が、金沢21世紀美術館で開かれる「開館20周年記念すべてのものとダンスを踊って-共感のエコロジー」に出展。会場には、地震で破損した九谷焼と珠洲焼の陶磁器片をベースに、輪島塗の技法で新たな造形物に変えた作品が展示され、復興への動きが垣間見える展示になっている。Rediscoverproject実行委員会委員長の奥山純一氏は、「元に戻すことが難しい破損状況であったことから、制作過程で違うもの同士を組み合わせて、九谷焼でも輪島塗でもないものが生まれた。今回は、手を加えて生まれ変わり進化したものと、山のように積んだ破片そのものを展示している。完成していないプロジェクトのプロセスそのものとして、融合されて進化していく様子を見てほしい」とコメントしている。

記念展を企画した金沢21世紀美術館館長の長谷川祐子氏は、「アーティストの鋭敏な感性と観察によって制作された作品や、科学者や哲学者などの研究者たちと協働して専門的な内容を視覚化、可感化する『感覚を通した学びSensoryLearning』によって、この地球の抱える諸処の問題を乗り越える。そのための知恵を、美と技によって見えないものを見えるようにする魔術であるアートによって、お互いにダンスを踊るように、あらゆる生命と共に分かち合っている」とコメントしていた。
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